山頂の古寺

253 :本当にあった怖い名無し:2006/12/12(火) 09:48:56 ID:sRfNwhMXO
 
知人Kの話。

その寺の存在を知ったのは小学校の社会の授業で、
町の地図を見て現地まで行く、という課題を与えられた時だったという。 
Kは町の東端にある、標高5~600mのT峰の山頂付近に卍マークを見つけ、日曜の朝から出発した。
 

253 :本当にあった怖い名無し:2006/12/12(火) 09:48:56 ID:sRfNwhMXO

山道を闇雲に登って山頂を目指すという無謀な道程は、想像以上にきつかったが、
いざとなれば野宿だ!なんて冒険気分だった。
「幸い無事に着けたが、今思えば怖いことだ」と話していた。

古寺は荘厳で、境内には清水の涌く水場があり、「水を飲ませて下さい」と声をかけると、 
白い顎髭の住職が笑顔で出て来たそうだ。
 

254 :本当にあった怖い名無し:2006/12/12(火) 09:53:27 ID:sRfNwhMXO
 
訪ねた理由を話すと、地方に伝わる昔話や寺の謂れを聞かせてくれ、畑で採れた果物を御馳走してくれた。
帰りは近道を教わり、スムーズに下山もできた。
Kは心地良い疲労を感じつつ、来週も訪ねようと思った。
「最近は訪ねてくる者もない…」と話す住職が印象的だったのだ。
野菜や水があり、食うに困らないとはいえ、不便なことは子供でも想像できた。
次は住職が好物と言った饅頭を持って行こうと思った。

家に戻り寺の話をすると、父親が怪訝な顔で、
「その寺はずいぶん昔になくなり、町にあるJ寺が代わりに建てられた物だ」と言った。 
 

255 :本当にあった怖い名無し:2006/12/12(火) 09:56:49 ID:sRfNwhMXO
 
白髭住職はJ寺の先代で、寺の移転計画に反対だったそうだ。
結局、移転は決定したが、妙なことに、それまでこんこんと涌いていた清水が見る見る枯れ、
住職も家移りを待たずに亡くなったという。
住職は、
「清水は山神様に頂いた大切なもの」
「昔、集落を干ばつの危機から救ってくれた命の水だ」
と彼に話していた。
Kの頭の中を住職の言葉が巡り、訳もわからず涙が溢れた。
幽霊を見た怖さからではなく、住職が寺を守り続ける姿勢に、子供ながら感動したそうだ。

これは、実家が寺でもないのに僧侶になったKに、理由を聞いた時にしてくれた話。