霧の中の影

306 :聞いた話 ◆UeDAeOEQ0o :04/09/03 00:15 ID:+djG5rAi
 
友人に聞いた話。 

小学生の頃、父親と二人で山道を下っていた。 
霧が出ていたので、互いに手を繋いで足元を見ながら歩く。 

と…ふいに父親の手に力が籠った。 
「お父さん、痛いよ」 
そう言って顔を上げた。 
父親は前方を睨んだまま、険しい表情を浮かべている。 
その視線の先を追うと、霧の中にぼんやりと小さな人影が見えた。 


306 :聞いた話 ◆UeDAeOEQ0o :04/09/03 00:15 ID:+djG5rAi

「見るな!」 
突然、父親が大声で吠えた。
「目を瞑れ!儂がいいと言うまで絶対に開くな!」 
只事でない剣幕に、慌てて目を瞑る。 
そのまま、父親に引き摺られるように歩き続けた。 
ジャリッ…ジャリッ… 
足音が二人の横を通り過ぎる際、小さく呟く声が聞こえた。 
「ナンマンダブナンマンダブ…」 



306 :聞いた話 ◆UeDAeOEQ0o :04/09/03 00:15 ID:+djG5rAi

それから20年あまりの月日が経ったある日、
久しぶりに父親と酒を酌み交わしていて、あの時のことを思い出した。 
「あの人影、誰だったんだ?」
父親はしばらく黙っていたが、やがて渋々といった様子で呟いた。 
「お前だった」

それっきり何も言わず、父親はコップ酒をあおった。