胡蝶の夢

930 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/08/24 22:44 ID:z32NM/t0
 
後輩の話。 

学生時代、仲間二人で入山している時に遭難したのだという。 
季節は秋の終わりで、小雨が降り続いていた。 
道を見失い、雨に打たれ続けた彼らは、疲労困憊だったそうだ。 

歩けなくなり繁みの中で休んでいると、仲間が船を漕ぎ始めた。 
無理もないな。そう思っているうち、眠っている仲間の口元が蠢きだした。 
と、いきなり口がパッカリと開き、一匹の蝶が這い出してくる。 
唖然として見ていると、蝶はどこかへ飛んでいってしまった。 
彼はどうしてか、仲間を揺り起こすことができなかったという。 


930 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/08/24 22:44 ID:z32NM/t0

どれくらい経ったのだろう。 
膝を抱え途方に暮れていると、先の蝶が戻ってきた。 
仲間の顔に留まるとその口をこじ開けて、もぞもぞと口腔内に姿を消す。 
次の瞬間「あーぁっ」と大欠伸をし、仲間が目覚めた。 
おもむろに立ち上がると、驚くことを言い出した。 
「こっちの方に標識がある筈だ。辿って行けばルートに戻れると思う」 



931 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :04/08/24 22:44 ID:z32NM/t0
 
何も聞かず、彼は黙って仲間に従った。 
笹薮を強引に抜けると、枝に結ばれたリボンが見つかった。 
正規の登山ルートへの印だ。 
それを頼りに、やがて見覚えのある場所に出ることができたという。 

無事に下山できると、彼は仲間に質問の雨を降らせた。 
「なぜわかった?どうしてわかった?」 
仲間は困ったような顔をして、次のように述べた。 
「夢を見たんだ。正規のルートへの道を見つける夢を。
 なぜかわからないけど、夢の通りにすれば助かると思ったんだよ」 

あの時、あの蝶を握り潰していたら・・・あいつはどうなっていただろう。 
そう考える自分が少し怖かったと、後輩は言う。