深夜の和歌山

792 :俺が中学生の頃に塾の先生から聞いた話:03/05/08 05:01 
 
先生は話をする前に、
「話し終わったら、私の腕に注目!」と、意味不明なことを言った。 
(話に出てくる『私』とは、先生の事です)

私が中学生の頃に、友達の田舎に泊まりに行った。 
確か和歌山だったかな?もしかしたら大阪かも?とりあえず近畿の南の方。
そこは遊ぶところに困らなくて、近くには海があり、山があり、とにかく自然で一杯だった。 
約一週間泊まったんだけど、その時間が一瞬で過ぎたと錯覚するぐらい楽しかった。 

いつもは夕方ぐらいには帰ってたけど、最後の一日は少しでも思い出を残そうと、夜まで海で遊んでいた。 
遊んでた場所から宿泊してた家までは自転車で約20分ぐらいだから、時間の事は余り気にしなかった。 

しかし夜の11時を過ぎ、さすがにそろそろ帰ろうという事になった。 
私たちはそれぞれの自転車に乗り、友達が前で私が後ろからついて行くという感じで、自転車を漕ぎ出した。 
自転車を漕ぎ出してすぐに、前を行っている友達が急に止まる。
友達「何か言った?」
私「何も言ってないけど?」
友達は首を傾ける。
友達「なら、別にイイわ」
とりあえず再び前を向き、私たちは自転車を漕ぎ出した。 


793 :俺が中学生の頃に塾の先生から聞いた話:03/05/08 05:01 
 
しかし1分も経たないうちに、また友達は自転車を止め切り出した。 
友達「お前、やっぱりなんか言ったやろ?!」
私「何も言ってないわ!そもそも何が聞こえてん?」 
友達「何か早口で『○○(名前?)は何処』と繰り返して言った後、放送終了後のテレビの『ザー』って感じの音が聞こえた」
私「『○○は何処』はともかく、『ザー』なんて声は出されへん」
友達「それも…そうやなw」
私たちは少し笑いながらも、さすがに二度も不思議な事が起きると怖くなり、横に並んで自転車を漕ぐ事にした。 

しばらく二人並んで自転車を漕いでいて、友達が「ふっ」と後ろを向いた。 
私は何となく友達の顔を見てみたら、友達の顔が露骨なほどに青くなっていく事に気付いた。 




794 :俺が中学生の頃に塾の先生から聞いた話:03/05/08 05:02 

 
私たちが使っていたその道は、50m間隔でしか街灯がなく、お世辞にも明るい道とは言えなかった。 
明かりと言えば、街灯と月明かりぐらい。
その限られた光でも、友達の顔が青くなるのが分かった。 
友達は叫び声を上げながら、自転車を速く漕いだ。 
私は状況が分からなかったが、友達の異様な行動に恐怖を感じ、訳も分からず自転車を速く漕いだ。 
友達は私に振り向きざまに、
「もっと速く漕げ!速く!つかまれるぞっ!!」
叫んだ言葉の意味は分からない。ただ漠然と恐怖を感じた。 
私は懸命に自転車を漕いだ。

私たちは5分ほど全速力で自転車を漕いだ。 
友達が後ろを向き、速度を落とし始めて、自転車を止めた。 
私もつられて自転車を止めた。
友達の顔色は、さっきの青い顔から戻っていた。 
私は先ほど聞く間もなかった事を聞いてみようと思った。 
私「いったい何があってん?」 
友達「お前がどんどん離れて行くと思って後ろを向いたら、
 お前の1mぐらい後ろに、白っぽい服を着たおばあさんが見えた。
 俺と目が合った途端に、白っぽい服がみるみる茶色くなって、お前の頭をつかもうと手を振り回してた。 
 お前、後10cmぐらいで頭つかまれてたぞ」 
私たちは泣きそうになりながらも、急いで帰ることにした。 


795 :俺が中学生の頃に塾の先生から聞いた話:03/05/08 05:03 
 
再び自転車を漕ぎだし2,3分ほど経った時、
私は自分の自転車が、友達の自転車と徐々に離れている事に気付いた。
私はスピードを落としたつもりはない。友達がスピードを上げた訳でもない。 
まして、実は友達の自転車に変則ギアがある、というオチがある訳でもない。 
横に並んでいたはずの友達と、徐々に離れていく。
負荷は感じないが、何か引っかかったのかと思い、後ろを見たが何もない。 
同じペースで自転車を漕いでいた。だけど少しずつ距離が離れていった。 
少しずつ混乱していく。友達に何を伝えればいいの分からない。 
「ガシッ!!」
何か金属音のような音が、後ろから聞こえた。 
後ろを向いた。しかしそこには、ただ暗闇が広がるだけ。 
よく考えると、正確には音は真後ろではなく、後ろの下の方から聞こえた。 
直感的に恐怖を感じながらも、下の方に目を向けた瞬間、それは居た。 


796 :俺が中学生の頃に塾の先生から聞いた話:03/05/08 05:05 
 
私たちが乗っていた自転車は、ママチャリと呼ばれる種類の自転車だ。 
それは、スタンドに手を掛けて引きずられていた。 
さっき友達が見たものに間違いない、白っぽい服を着たおばあさんだった。 
それと目が合った瞬間、着ている服が茶色く変化していく。 
目線を外すことが出来ない、自転車を漕いでることすら忘れてしまった。 
それはスタンドに掛けていた手を上にあげ、荷台の方に手を掛けた。 
そして、荷台に掛けた手を更に進め、サドルをつかむ。 
それがサドルに手を掛けた時、やっと私は叫び声とともに体が動いた。 
サドルに掛けた手を振り払おうと、左手を動かした瞬間、それは私の腕をつかんでいた。 
それの手を見た時、人差し指の爪だけが、他の指の爪よりも1cmほど長かった事に気付いた。 
しかし、そんなものを見ている時ではない。 
私はつかまれた手を振り払った。
私の左手に激痛が走り、その拍子に自転車から転げ落ちてしまった。 
耳元で声がする。
「○○か!○○は何処?」
そして、「ザー」という音が聞こえた。 
いや、正確には「ザー」ではなく、もっと大きな音。 
何かがたくさん落ちてくるような、爆発音にも近い音だった。 
私はすぐに体勢を整え、全力で走って逃げた。 
家までは150mほど、自転車を拾っている余裕はなかった。 
その一部始終を見ていた友達も、叫びながら全力で自転車を漕いだ。 


797 :俺が中学生の頃に塾の先生から聞いた話:03/05/08 05:05 
 
二人が家に着いた時、二人とも服が泥だらけだった。 
私はコケタが、友達の方に土が付くのはおかしかった。 

泣きながら、友達の祖父母にその一部始終を伝えると、二人とも何か神妙な顔になっていた。 
その地域は戦時中に、都会から疎開してきた人が多かったらしい。 
田舎と言っても、いつ戦渦に巻き込まれるかは分からない。 
万が一のために、幾つか防空壕を作っていたらしい。 
しかし、戦争が始まり早急に作った防空壕のため、強度が全くなく、よく落盤していたそうだ。 
「もしかしたら、何かの拍子に防空壕に入って、亡くなった人なのかもしれないね」 
友達の祖母はそう言った。


798 :俺が中学生の頃に塾の先生から聞いた話:03/05/08 05:07 
 
先生はこの話を、塾に通っていた俺らに聞かせてくれた。 
先生は話し終わると、自分の服の袖をめくり俺らに腕を見せた。 
「腕を振り払った時に痛みが走ったと言ったけど、これがその時ついた傷」 
そう言った先生の腕には、爪で引っかいたみたいな傷が一本走っていた。(10cmぐらい)
「あと私、この話をしたら絶対に鳥肌が立つんやわ」
話を聞いた俺らに鳥肌が立つのはわかるけど、話をした本人に鳥肌が立つのはおかしくない? 
でも、先生の腕には確かに鳥肌が立ってた。
ほんでさ、話をしてくれた日に、塾を休んでいた奴が居たんだけど、 
翌週そいつが「俺も聞きたい」って催促して、もう一度同じ話をしてもらってん。 
やっぱり先生の腕には、鳥肌が立ってた。 
二度も続くと、さすがに本物と思ってマジでびびったわ。 


799 :俺が中学生の頃に塾の先生から聞いた話:03/05/08 05:08 
 
あと、先生が自転車からコケタ時に走ったと言ってたけど、
友達の方は自転車を全力で漕いでたのにも関わらず、先生は友達を追い抜いて先に家に着いたらしい。 
「あの時、タイム計ったら世界新でたね」
びびってた俺らに、けらけら笑いながらオチを付け加えてくれた。 
少し心が安らいだよ。