夜の山の声

774 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/05/30(土) 22:20:51 ID:Q1b1pPHc0
 
山仲間の話。 

風の強い夜、山で野宿していると、どこからか悲鳴が聞こえた。 
外に出ると風音に紛れて微かに、しかし確かに苦しそうな人の声がしている。 
声の主を捜そうとして耳を澄ましてみたが、どうも様子がおかしい。 
まるで風に乗っているかのように、悲鳴は谷間の空中をぐるぐる飛び回っている。 


774 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/05/30(土) 22:20:51 ID:Q1b1pPHc0

一緒に宿していた杣人が言う。 
「聞くな、どうしようも出来ん。 
 あれは昔、鬼隠しにあった者が、鬼にゆっくり喰われてるんだ。 
 十年ほど掛けてゆっくり喰われるらしい。 
 里じゃ十年殺しって呼んで恐れてる」




774 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2009/05/30(土) 22:20:51 ID:Q1b1pPHc0


「今は大丈夫。あの悲鳴が聞こえている間は、新しく人が獲られることはない」 
杣人は最後にそう言って口を閉ざす。 
悲鳴はゆっくりと山奥へ去っていき、じきに聞こえなくなったという。