時空の引換券

640:2011/05/18(水)11:26:43.57ID:aDIst1kzO

時空の歪みっぽい話があるので書き込ませていただきます。

小学生の頃の話。当時、私の学年では柱抜けと言う遊びが流行っていた。自転車に乗ってスピードをゆるめずに、壁と電柱の間の狭いスペースを抜ける、という度胸試しだ。
その日も団地の子供が10人くらい集まって、かわりばんこに柱抜けをやっていた。みんなが見ている中で私はいつも身に付けていたデジタル腕時計を壊してしまった。

某ネズミーの立体的な顔がフタとして付いてるデジタル腕時計で、ネズミーの鼻っ柱が電柱にぶつかり、フタがもげてしまっていた。ネズミーの鼻も少し傷付いてしまった。


640:2011/05/18(水)11:26:43.57ID:aDIst1kzO

大好きな叔母からもらったものだったので、とてもショックだったのを覚えてる。悲しくなって泣きべそかく私を友達がなぐさめてくれたが、どうにも涙は止まらない。

傷心のまま家に帰ると、母親が修理に出しておいでと言ってくれた。
私は急いで時計屋さんへ修理のお願いに行ったのだが、その時計はちょっと特殊な材質でできており、完璧な修理は無理だと言われた。

それでも良いからとお願いすると、修理が終わったら連絡するよ、と引換券をくれた。引換券はなくさないように、帰宅してすぐに鍵付きの引き出しにしまった。
それからは毎日のようにやっていた柱抜けを止めて、帰宅一番に引換券を確かめるのが日課になった。




640:2011/05/18(水)11:26:43.57ID:aDIst1kzO

そわそわしながら待つこと一週間。学校から帰宅して引き出しを開けると、そこからあのデジタル腕時計が傷一つない状態で出てきた。
完璧に直ってるのが嬉しくて、私はすぐさまそれを腕に付けて母さんの元へ行った。
母さんが引き取りに行ってくれたのだろうと思ってお礼を言ったのだが、取りに行くどころか、壊した事さえ覚えていない様子だった。
不思議に思いながらも時計屋さんへ行き、綺麗に直してくれてありがとうとお礼を言うと、うちでは修理してないよ、と言われてしまった。
そんなはずない、電話番号を教えたし引換券ももらった、と言うと台帳みたいなのを調べてくれたが、修理を請け負った形跡は出てこなかった。

ここまでくると完全にパニック状態だ。私は急いであの日なぐさめてくれた友達に会いに行ったが、友達も覚えてなかった。
ただ、壊れてなかったんだからいいじゃんと言われ、それもそうかと納得してしまった。
そのまま安心して遊びに行くと、団地の子供たちが柱抜けをしているのに出くわした。友達に誘われるまま久し振りに私も柱抜けに参加し、そしてみんなが見ている前でデジタル腕時計を壊してしまった。
フタがもげて、ネズミーの鼻っ柱に傷が付いていた。私は泣き出してしまった。壊れたことより、一週間前の再現みたいな状況が怖かった。
逃げるように帰宅すると、時計を壊したから泣いてると思った母さんが、修理に出していらっしゃいと言った。

一週間前には嬉しかった言葉が、その時はよけいに恐怖をあおった。時計を急いで外すと、鍵付きの引き出しにしまいこんだ。

しばらくは引き出しに触れるのもためらうような日々が続いたが、この話をするたびに母さんや親戚の姉さんが夢を見たのよ、と笑うので、そうかもと思うようになった。
それでも引き出しを開けて時計が直ってたらどうしようと怖がっていたので、親戚の姉さんが引き出しを開けてくれた。
そこには壊れたままの腕時計があって、安心した私は姉さんと一緒に時計を修理に出しに行った。
2週間前と同じように電話番号と氏名を書き、もらった引換券を財布にしまう。姉さんとは店を出た所で別れて、柱抜けをしている団地の子供たちに混ざって遊んでから帰宅した。

勝手に引換券が時計に変わらないよう、母さんに引換券を渡しておこうと財布を開けると、そこには引換券が2枚入っていた。
1枚は今日もらったもの、もう1枚は黄ばんで字もかすれて所々しか読めないけれど、修理を頼んだ時計店の名前が確かに書いてある。
それを母さんに見せると、アラあんた何か買ったの?小遣い帳に付けときなさいよ、と流されてしまった。違うんだってと主張したものの、馬鹿いってんじゃないのとゲンコツくらって終了。

翌日、友達の家に行ってそのかすれた引換券を見せながら説明すると、友達は信じてくれて団地の子にも教えに行くことになった。
その引換券なんだが、団地の子供たちに見せに行く途中でなくなってしまった。きちんと財布に入れてあったはずなのに、他の子に見せようとしたらなくなっていた。

このことは人には話さなくなったものの、私の中にずっと引っかかっていた。そして先月、実家の蔵をそうじした妹から姉さんのものらしき財布発見!と写メが来た。
中身はプリクラや映画の半券など思い出の品ばかりで、金目のものはない。しかしその中に黄ばんでかすれた引換券があった。
日付は読み取れないものの、店名は紛れもなくあの時計店のもの。急いで返信したが、すでに中身ごと財布が捨てられたあとだった。
確かなことなどないが、あの引換券と時計は時空を行ったり来たりしていたのではないかと、今はそう思っている。

理由はわからないけれど、きっかけは柱抜けだと思う。当時は自転車に乗っていない時も走って柱抜けをしていたし、妹からメールが来た日、偶然にも私は柱抜けをしていた。しかし、なぜ引換券が時空を越えたんだろう?