地蔵様の夕焼け

100:10/01/31(日) 21:52:42 ID:9q7rBYBB0

父方の叔父に聞いた話。 
父達の実家は山奥にある、文字どおりの田舎の村なので、ある程度大きくなった子供にとっては退屈な場所だった。 
特に不良気取りの少年達には。 
叔父が中学一年だったある日の放課後、同じ学校の三年生の杉田とその手下に捕まった。 
杉田は制服を「ツッパリ」風に改造して学校内で幅をきかせている、正直関わりたくない奴ナンバーワンだった。 


100:10/01/31(日) 21:52:42 ID:9q7rBYBB0

杉田達は叔父ともう二人捕まった生徒を連れ、裏山への道へ入って行った。 
その先には古い墓場があり、十基ほどの墓と六体の地蔵が据えられていた。 
なんだかすごく悪い予感がした。 
杉田は手下から金属バットを受け取ると、捕まった一人に差し出した。 
「あいつ気に食わねぇ」 
と杉田は地蔵の一体を指差し。 
「首ぶっ飛ばせ」 
とだけ言った。 
言われた少年は半泣きになり、 
「すみません、勘弁してくださいよ」 
と頭をペコペコ下げた。 
それを見て手下どもが笑う。 



100:10/01/31(日) 21:52:42 ID:9q7rBYBB0

捕まってる叔父ともう一人も真っ青になっていた。 
杉田は何も言わず、じぃっと少年にガンをたれる。 
地蔵も怖いが杉田も怖い。叔父もそう思ったという。 
少年はよろよろと地蔵の前まで行くと、バットを構えた。 
「やれ、やれ」 
手下どもがヤジる。 
意を結した少年がフルスイングする。 
カーン 
地蔵の首が藪の中へ飛んで行った。 
「あーあ、やっちまったやっちまった。呪われるぞー」 
手下のヤジについに少年がポロポロ涙を流す。 
それ見て杉田が満足そうにニヤーっと笑う。 
サドという奴だ。叔父は尚更杉田が怖くなった。 

「次、あれ」 
叔父の隣にいた少年に、杉田が金属バットを渡す。 
今度の少年は迷う事なく地蔵に向かった。どのみち仕方ないのだ。 
しっかり構えて、フルスイング。 
ドッ 
しかし金属バットは地蔵の肩に当たり、衝撃で台座から落ちた。 
「なにやってんだよー」 
手下どもがヤジる。 
叔父が地面に転がる地蔵を見ると、頭から落ちた地蔵の首は折れていた。 
「何やってんだよ」 
杉田が打ち損なった少年の足にケリを入れる。 
ウッとうめいた少年はそのまま地面に転がる。 
「最後 、お前」 
叔父の番だ。 
「お前、野球部だよな?」 
確かにその通りだった。とは言え今はただの下っ端だが。 
「あれ行け」 
これまでの地蔵の倍はある一体を指差した。台座の位置が他より低いので、頭に高さはそれほど変わらなかったが。 
その地蔵を見た瞬間、叔父はイヤなかんじがした。 
とんでもないことになる気がした。 
「勘弁してください、勘弁してください」 
杉田は無言でみぞおちにパンチを入れてきた。 
それでも必死に踏ん張って。 
「あれだけは、あれだけは勘弁してください」 
「聞こえねぇ」 


100:10/01/31(日) 21:52:42 ID:9q7rBYBB0

そう言う杉田の目はギラギラして、どんなことでもやりかねない怖さがあった。 
諦めた叔父はゆっくり地蔵に近づいた。 
間近で見ると、よりイヤなかんじが強まった。 
「許してください、許してください」 
口の中でつぶやきながら金属バットを振りかぶる。 
飛ばす方向を見ると、視界の端に杉田がこっちを睨んでいるのが見える。 
フルスイング。 
ゴッ 
瞬間、杉田の首が三回転して捩じ切れ、そのまま頭が前のめりに落ちた。 
地蔵の首にはヒビ一つ入ってなかったという。 

(終)