汽車のマグロ

235:10/06/14(金) 23:11:23 ID:GfgYre880

俺の曾ジィちゃんは、国鉄時代汽車の運転手をやっていた。生前、そんな曾ジィちゃんからよく聞いた話。

ジィちゃんの仕事は、もちろん汽車の運転なんだけど、どうしてももうひとつやらされる仕事があって、その仕事をやる日はもうイヤでイヤでしょうがなかったそうだ。要するにマグロ拾いである。


235:10/06/14(金) 23:11:23 ID:GfgYre880

マグロ拾いっていうのは、電車による事故(自殺)で体がバラバラになってしまった人のパーツを拾い集めること。

時代は終戦後で、きたないとかきれいとか、違法合法なんて概念はそっちのけ、みんな生きるのに必死だった頃。生きるのがつらくて死を選んでしまう自殺者も、もちろん多かったそうだ。

ジィちゃんは運転手なので、基本的には汽車の先頭車両で、いつも前方を見ていた。だから、飛び込んでくる人が丸見えなんだ。

飛び込んでくるならまだしも、一番最悪だったのは線路の上に3、4人(家族)で寝ているのを見てしまったときだとか。

で、線路脇に立って電車を見てる人はいっぱいいるけど、これから飛び込もうって奴は、どんなに離れていても、顔が見えなくてもすぐわかるんだって。

なんでも、立ってる姿の上に、そいつの目が見えるんだって。そいつの頭の上に、悲しそうな両目がぼやけて見えるんだって。飛び込む奴はこういう目をしてるんだ、わかるんだ、って言ってた。



235:10/06/14(金) 23:11:23 ID:GfgYre880

それで曾ジィさんはある日、線路脇に飛び込みそうな奴が見えたから、また目の前で死なれるのがどうしてもどうしてもイヤで、ブレーキを早めにかけたんだって。予想して、飛び込む前からかけてたんだって。

案の定飛び込んできたその男は、まだまだ若い奴で。飛びこんだ時に勢いがあったせいか、うまいように飛ばされちゃって線路脇のくさむらで、のたうちまわってたんだって。

よかった、生きてる!と思った曾ジィさんは、すぐに汽車をとめて急いでその男のところへ走って行った。

すると、男は

「汽車がとまった、運転手、とめやがったなぁー」
「なんでとめたんですか、なんでとめたんですか、恨みます、恨みますよ…」
って泣きながら叫びまくって、ゲロを吐いて、うわごとみたいに曾じぃちゃんをすっげぇ責めたんだって。

だから曾じぃちゃんは、バカいうな、死ぬんじゃない、とか色々説教してから、その男を同僚にまかせて、自分はそのまま運転席に戻ったんだって。

そしたらその男、数日後にまた汽車に飛び込んで死んだんだよ。その男が飛び込んだ汽車っていうのが、曾ジィちゃんの運転してた汽車の、最後尾車両なんだって。

曾ジィちゃんは、男と知らずにいつも通りそのマグロを拾ってたんだけど、後からそれを知って、あまりに悲しくて腹が立ったそうだ。

あいつ、死に損なった俺の汽車をわざわざ狙ってたんだろうな…だって。